映画『オッペンハイマー:OPPENHEIMER』の見どころと感想

その他

第二次世界大戦後「原爆の父」と呼ばれることになる天才理論物理学者オッペンハイマーの人生と、広島・長崎への原爆投下で芽生える罪悪感、戦後の冷戦時代に、ソ連のスパイ容疑をかけられたことの苦悩などが描かれます。

また、数々の賞を受賞し、アメリカのアカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞など7部門の受賞となりました。

作品情報

監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン
原作:カイ・バード、マーティン・シャーウィン著『オッペンハイマー:「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』(原題:American Prometheus: The Triumph and Tragedy of J. Robert Oppenheimer)
製作:エマ・トーマス、チャールズ・ローヴェン、クリストファー・ノーラン
製作総指揮:デヴィッド・ワーゴ、ジェームズ・ウッズ、トーマス・ハイスリップ
音楽:ルドウィグ・ゴランソン
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ、ビターズ・エンド
公開:2023年7月21日
上映時間:180分
製作国:アメリカ合衆国

キャスト

オッペンハイマー:キリアン・マーフィー
キャサリン・オッペンハイマー(キティ):エミリー・ブラント
レズリー・グローヴス:マット・デイモン
ルイス・ストローズ:ロバート・ダウニー・ジュニア
ジーン・タトロック:フローレンス・ピュー
アーネスト・ローレンス:ジョシュ・ハートネット
ボリス・パッシュ:ケイシー・アフレック
デヴィッド・・ヒル:ラミ・マレック
ニールス・ボーア:ケネス・ブラナー

『オッペンハイマー』のあらすじ

カリフォルニアの大学で教鞭を取っていた理論物理学者のJ・ロバート・オッペンハイマーは、第二次世界大戦中、アメリカが極秘に進めていた原子爆弾開発のマンハッタン計画に開発のリーダーとして参加することになる。

ロスアラモスの砂漠地帯に厳重に警備された研究施設を作り、欧米から集めた優秀な科学者とともに原子爆弾開発を始める。

元々原爆開発はアメリカよりもドイツの方が進んでおり、戦争を早期に終結させるためもドイツよりも先に完成させる必要があった。ところがドイツが降伏したために、日本がターゲットになる。

トリニティ実験で世界初の核実験に成功。その後、広島・長崎への原爆投下を行い戦争は終結する。しかしその結果、何万人もの命が失われたことで、オッペンハイマーは倫理的葛藤に苦しむことになる。

戦後、核兵器の危険性を訴えるオッペンハイマーであったが、世の中は冷戦に進んでおり、オッペンハイマーの気持ちとは裏腹に核開発はアメリカにとって必須のものとなっていった。

オッペンハイマーは核開発に対して消極的と捉えられ、当時の赤狩りの波が押し寄せる中、共産主義者とみられたり、ソ連のスパイの疑いをかけられたりと政治的圧力が加わり、公職の地位を失っていきます。

この作品では、オッペンハイマーの生涯と、戦後の冷戦下で、水爆を含む核開発の危険性を訴える姿や、彼が疑いをかけられ行われた、諮問委員会やストローズの公聴会のシーンが交錯して描かれる。

『オッペンハイマー』の見どころ

万能ではないオッペンハイマーの学生時代

ハーバード大学を首席で卒業した理論物理学の天才オッペンハイマーも若い頃は万能ではなかったことがわかります。ハーバード大学卒寮後のイギリスのケンブリッジ大学では、実験が苦手で担当教授を恨んだり、ホームシックにかかったりしています。実際オッペンハイマーは心を病んで、精神科にかかったことがあるそうです。

オッペンハイマーと2人の女性

オッペンハイマーはバークレー校時代にジーン・タトロックという女性と付き合っていますが、結婚することはなく別れ、のちにキャサリン(キティ)と結婚しています。ジーンはオッペンハイマーと分かれた数年後に自殺しています。

キティは子育てからくるストレスで、アルコール依存症になりながらも、生涯オッペンハイマーを支えています。でも、結婚後もオッペンハイマーはジーンのことが忘れられないような様子で、ジーンとの関係が赤裸々に描かれます。

原爆開発

1938年にナチス・ドイツは核分裂の実験に成功すると原子爆弾の研究が始まります。それに危機感を持ったレズリー・グローヴス大佐は原爆の開発・製造を目的としたマンハッタン計画を立ち上げます。そして、オッペンハイマーに開発チームのリーダーを依頼するのです。

ニューメキシコのロスアラモスに新しく街まで作り、そこに欧米からスカウトで選ばれた有能な科学者をはじめ、計画のスタッフ合わせて数千人が家族共々移住して計画を進めていきます。

そこは、厳重な警備のもと外へ出ることも許されず、不満を持つものや、のちに「水爆の父」と呼ばれるようになるエドワード・テラーとの対立、原爆開発に疑問を持つものなどとの軋轢が生じる中、原爆の開発は進められて行きます。

1945年に入るとドイツが降伏し、原爆投下のターゲットがなくなります。原爆開発を続けることに疑問を持たれるようになりますが、ターゲットを日本に変更して計画は進められます。

ロスアラモスで精力的に原爆開発をしてきたオッペンハイマーですが、広島・長崎への原爆投下を知ると、原爆を開発したことへの後悔と罪悪感が芽生えてきます。それが、いつ、どのように芽生えてきたのかが、オッペンハイマーの心の動きがこの映画の一番の見どころでしょう。

オッペンハイマーとストローズの対立

オッペンハイマーとストローズの対立が、戦後のオッペンハイマーにとっての核心的な部分でしょう。
オッペンハイマーは戦後、プリンストン高等研究所の所長に任命されますが、任命をしたのが原子力委員会の長官ルイス・ストローズです。

初対面のオッペンハイマーとストローズは、のちに対立するようになります。ことの発端は、アイソトープを海外へ輸出するかどうかの公聴会で、安全保障上の理由で輸出に反対するストローズを影響力を持つオッペンハイマーに揶揄され笑い物にされてしまうのです。それを根に持ったストローズは、オッペンハイマーを追い落とすために色々と画策を始めます。

元軍人のボーデンにFBIの極秘資料を渡し、オッペンハイマーが共産党に関与しており、ソ連のスパイであると告発させるようにし向けたのです。その嫌疑を問う聴聞会も公にではなく密室少人数で傍聴人も記者もなし、おまけに立証責任もなしという、ただオッペンハイマーを追放するだけの聴聞会を行わせるのです。

このストローブスの公聴会とオッペンハイマーの聴聞会が物語のなかで交錯して描かれていきます。

『オッペンハイマー』の感想

監督のクリストファー・ノーランは私の大好きな監督で「インセプション」や「インターステラ」「テネット」など、いろいろ見てきましたが、どの作品もとても面白い作品ばかりなので今回も期待しながら鑑賞しました。予想通り、この『オッペンハイマー』もとても印象的で面白い作品でした。

オッペンハイマーの苦悩と挫折

この映画で何をいいたかったのでしょうか。それはいくつかあると思いますが、自分なりに考えてみると、科学と倫理観との間での葛藤ではないかと思います。

オッペンハイマーはヨーロッパからの帰国後、カリフォルニアの大学で教鞭を取ることになります。この頃は純粋に科学者(理論物理学者)として学生たちを教え、研究をしていました。

レズリー・ストローヴス大佐のスカウトによりマンハッタン計画の開発チームリーダーとして参加しますが、おそらく最初は科学者としての探究心がほとんどだったのではないでしょうか。しかし、原爆の完成が近づくにつれて、その破壊力と被害の大きさに心が揺らいできます。そして原爆が完成し、広島・長崎へ投下されると、罪悪感に苛まれるのです。

戦後、オッペンハイマーは「原爆の父」として、戦争を終わらせた男として称賛されますが、アメリカ政府がソ連に対抗して水爆開発や核政策を進めるのに対して危惧します。映画終盤でトルーマン大統領との会談のシーンがあるのですが、そのシーンは短いながら、それを象徴しているように思われます。そして、ストローズとの確執によっても公職を失うことになってしまいます。

名優たちの演技が素晴らしい

主役のオッペンハイマー役のキリアン・マーフィー。この映画は実在の人物を描いた映画なので、当然、似た俳優をキャスティングしたのでしょうが、キリアン・マーフィーは見事にハマっている印象です。以前にドキュメンタリーで生前のオッペンハイマーを見たことがあるのですが、似ているだけではなく、印象もそっくりのように感じました。この映画でキリアン・マーフィーはアカデミー主演男優賞を受賞しています。

特に印象的だったのが、ルイス・ストローズ役のロバート・ダウニー・ジュニア。老けた印象を与えるメイクをしているので、一瞬誰かわかりませんでしたね。ロバート・ダウニー・ジュニアといえばチャップリンの自伝映画「チャーリー」や「アイアンマン」「シャーロック・ホームズ」などが有名で、演技派の俳優として知られてはいましたが、今回改めて演技力の高さを実感しました。この映画でアカデミー助演男優賞を受賞しています。

そして、ちょい役でしか出てこなかったのですが、トルーマン大統領役でゲイリー・オールドマンが出ていたことは後になるまでわかりませんでしたね。ゲイリー・オールドマンといえば、2017年の「ウインストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」のチャーチル役で演技だけではなく、自ら辻一弘に依頼した特殊メイクも話題になり、アカデミー主演男優賞を受賞したことは有名ですが、今回のトルーマン大統領のメイクも含めて見事でした。

おわりに

この映画は、原子爆弾開発の中心人物である理論物理学者オッペンハイマーの自伝映画なのですが、このような映画を一度見ただけで内容を理解するのはなかなか難しいですね。確かに何十年にもわたる主人公の人生をたかが2、3時間(この映画は3時間)にまとめてるわけですから。

当然、全ての出来事を映像として見せられるわけにはいかないので、会話の中のセリフとして説明している場合も多々出てきます。そうするとセリフを一つ聞き逃しただけで、その後の内容がわからなくなってくることが少なくありません。この映画はアクション映画ではないので、話し合いや会議のシーンも多く、余計に大変です。

この映画の見方として、このような実在の人物を描いている映画の場合は、前もってその主人公についてある程度調べておくのも理解度を上げる上でいい方法かもしれません。

オッペンハイマーについては「原爆の父」といわれて、戦後のアメリカで称賛されたのは知っていたのですが、オッペンハイマーの学生時代のエピソードだとか、戦後をどのように送ったのかまでは知らなかったので、この映画は興味深く、とても面白く見ることができました。

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